とある針灸師の実情

針灸師・稻垣順也が、終わりのない自己紹介を続けていくブログです。

3月12日の出来事・前編

 

『鍼道 一の会』のブログで既に報告してある通り、3月12日の日曜に、大阪医専の卒業生のための勉強会に参加してきました。

blog.ichinokai.info

 

この日を僕は、実に平穏な気持ちで迎えていた。

ゲスト講師としてのプレッシャーなどは特に無く、むしろ、妹分である江見木綿子先生の教師っぷりを初めて見られる楽しみが有った。

江見先生と受講者の皆さんとが成立させる勉強会の雰囲気は、熱意やみずみずしさで満たされるに決まっていた。

そんな現場で、僕自身も学びや刺激を得て帰ることだろうと、疑わずに居た。

 

勉強会の開始は13時30分からだったが、僕は12時前に到着していた。

江見先生と、森ノ宮での学生時代にお世話になった上藤先生とで、昼食をご一緒することになっていたからだ。

大阪医専という学校は、梅田スカイビルのすぐ近くに在る。

スカイビルの写真を撮りながら、僕は、患者さんであり友人でもある「ロシアの魔女」(通称)のことを思い出していた。

ロシアの魔女は、以前、この上の展望台に連れていかれ、産まれたばかりの子鹿のように、立つこともままならないほど震え上がったそうだ。

彼女は高所恐怖症だ。

飛べないタイプの魔女なのだ。

しかし、僕ほど高所恐怖症を極め、「高低差恐怖症」の境地に到達した者ならば、もはや見上げるだけで怖がれる。逆に、見上げる方が怖がれる。

見上げると同時に、最高位の橋梁の周囲で作業を強要された自分を想像し、そこで体感するであろう風の荒くれ具合を思い、内股を冷え上がらせることが可能だ。

手ぶれ補正が無ければ、上の写真の仕上がりは無残なものだっただろう。

 

魔女もこのアングルに秘められた恐ろしさを理解できるだろうか……そう考えていた時、スマホの画面に「しぬ」というメッセージが表示された。

それは、魔女からのメッセージだった。

僕が写真を送った訳ではない。

「救急に行ったけど一時間以上待って全然呼ばれないからもう帰った」「呼吸が浅くてしぬ」と、メッセージが続いた。

彼女は、持病の喘息を発症していたのだ。

ただちに駆け付けたい気持ちになったが、そういう訳にもいかなかった。

同時に江見先生たちの姿も見付けていた僕は、「15時ぐらいからなら向かえるのですが」「もうちょっと頑張ってください」などとメッセージを送りながら、両先生に少々おざなりな挨拶をし、お二人に付いてお店に入り、鈍い味覚で蕎麦と稲荷寿司を食べた。

 

往診に行くことを約束したものの、僕には懸念があった。【中編へ続く】